大日本窯業協会雑誌 T11.6 No.358/大熊喜邦「煉瓦の規格」

煉瓦のJES規格制定に際しての考え方を述べた文章。『建築雑誌』大正十年七月号掲載文の抄録。

煉瓦の規格(工学博士 大熊喜邦)

煉瓦の規格に関して一言述べようと思う。而して其の規格に就て説明するに先ち予め申述べて置かなければならぬ事は、この煉瓦規格を調査し決定するには、建築学会の委員に更に窯業専門の学者と関東並に関西の製造業者の委員を加え慎重に研究し、且つ決定的になったものは夫々実際に製造して貰い即ち試製品を造り、不便不利なる点には改良を加え、数十回の審議を経て来たものである、という事である。(略)
(イ)在来煉瓦の標準寸法と各国煉瓦の寸法、煉瓦というものは建築材料としての木材の様に、昔から日本に在ったものでなく西洋文化の東漸と共に日本に輸入されたものであるから、日本に於て製造したものでも其形状寸法は西洋煉瓦の型から採って出来たものである。従ってある時には西洋の寸法其ままに造った時もあり、また従来使い慣れたものの他に突然ある国の煉瓦を其国の寸法の称え方通りにして製造した時もある。然し結局は西洋の型を日本の寸法に換算して造ったもので、それには日本人の体力が考慮に入れられて居るのは勿論であるが、従来に於ては「各国煉瓦寸法表」に示す通り旧山陽型、鉄道並型、並に所謂東京型の数種があり一時は独逸型製造された事もあったが、今日に於ては日本の煉瓦の寸法は殆んど統一され一般に長七寸五分、幅三寸六分、厚二寸、が標準になって居る。この日本の標準寸法と比較対照する為め世界各国の煉瓦の寸法を示せば「各国煉瓦寸法表」の通りで、数字には一二明瞭でないものもあるが大体に於ては其大さを知る事が出来よう。而して表中+印を付せるものは其国に於て主として使用されている大さである。
(ロ)乾燥及び焼成に依る寸法の変化、在来煉瓦の標準寸法は今日に於ては殆んど一定されて居るけれども、素地の乾燥に際して収縮の度を異にするものが出来、焼成に際して焼の度の相違から更らに焼成の度を異にするものが生じ、ここに出来上がった煉瓦の寸法に対して色々な変化を生ずる次第である。今参考の為め素地の寸法と焼製品各等級の平均寸法との比較表を示せば次の通りである。

品等\寸法

素地

1.00

1.00

1.00

縮焼過

1.10

1.13

1.10

撰焼過

1.08

1.10

1.08

焼過一等

1.07

1.09

1.07

同 二等

1.09

1.07

1.05

同 三等

1.04

1.06

1.05

並焼一等

1.04

1.05

1.05

同 二等

1.04

1.05

1.05

 本表は焼製品の寸法を以て素地寸法を除したる割合を以て示す

又各工場に於て製造されたる各等級の煉瓦の実際の寸法に就て一例を示せばこれまた次の通りである。

 

長(寸)

幅(寸)

厚(寸)
撰焼過

7.16
6.40

3.38/3.55

1.79
1.95

焼過一等

7.20
7.45

3.40
3.50

1.90
1.90

焼過二等

7.20
7.40

3.40
3.55

1.90
1.95

焼過三等

7.30
7.50

3.50
3.55

1.85
1.95

並焼一等

7.34
7.48

3.58
3.60

1.90
1.89

並焼二等

7.35
7.51

3.53
3.62

2.00
1.87

並焼三等

7.35
7.57

3.55
3.65

1.90
1.91

縮焼過

7.10

3.35

1.80

かくの如くにして在来の煉瓦は長さに於て四分、幅に於て二分五厘、厚さに於て一分五厘強、以内の寸法の相違は極めて普通の事として考えられて居ったのである。而してこの寸法の相違は原料並に其配合の研究と焼成方法の改善とによって其範囲を縮小し得るものであるのとの事であれば、将来は標準とする寸法に出来得る限り接近した大さのものを製造するという理解を以て、煉瓦の規格を定めなければならぬ。

(ハ)在来煉瓦寸法の更新 煉瓦の寸法は在来に於て略一定されて居る様であるが、今日に於て其品等と共に寸法を規定する規格を極めて置かなければ将来乱雑になる恐れがある。而して現在の寸法を改めるに関して何を目標して考えなければならぬかといえば(一)現在の寸法より大きくすることは焼成不十分の点。取扱上不便の点から不利益であることは一般の認むる所である。(二)現在の煉瓦の幅三寸六分は、本邦の煉瓦職工殊に手伝女人夫が取扱う上から見て少しく広過ぎ今少しく縮小する事を必要とする。現在に於ては前に掲げた表から見ても正三寸六分のものは少く大抵縮小されて居る為めに大なる不便を感じて居らぬが三寸六分より小さくなる事は取扱上慥かに利益である。(三)現在の煉瓦の厚二寸は焼成の点から見て適当である。これを薄くするときは曲りを生じ、これを厚くするときは焼成度不十分となり又は割れを生ずることは試製の結果からでも明瞭である。(四)煉瓦の寸法を定むるに「メートル」法の実施を目前に見て、在来の日本尺を用いるのは徒に複雑となる計であるから、「メートル」法に依り寸法に端数を付けない様にすることが将来の利益で且便利である。以上に述べた諸条件を目安として煉瓦の寸法に研究の歩を進めると、第二と第四の目安から現在の幅を「メートル」に冠山市、幾分なりとも幅を縮小して取扱易からしめる方針に依って端数を切捨て幅十「センチ」とすることが最も適当である。又其長さは縦目地を一「センチ」として、幅の二倍に縦目地の幅を加えたるもの即ち二十一「センチ」を以て長さと定めるのである。而して厚さに関しては第三の目安から二寸以内にして二寸に最も近い「メートル」尺の整数六「センチ」を以て厚さとしたのである、此の如くにして本連合調査会は煉瓦規格としての寸法を

21センチ×10センチ×6センチ

と決定した次第である、而して外国の例に徴しても寸法が更新さるるときは漸次小さくなる傾向を示しているのは、この決定と対比して参考となるべき事柄である。更に一言すべきことは現在の煉瓦製造法では総てを全く同一寸面に焼成することは不可能の様であるから、製造業者はこの確定の寸法に出来得る限り近からしむる様に製造するという理解を以て前記の寸法と定められたのである。(略)

各国煉瓦寸法表

 

長(寸)

幅(寸)

厚(寸)
旧山陽形

7.5(22.7)

3.6(10.9)

2.2(6.7)

山陽並形

7.3(22.1)

3.5(10.6)

1.7(6.18)

鉄道並形

7.6(22.7)

3.6(10.9)

1.8(6.48)

在来形

7.6*(22.7)

3.6(10.9)

2.0(6.05)

*原文は7.5

 

長 センチ

幅 センチ

厚 センチ

英国

25.4+

12.4+

7.6+

 

23.6

11.5

7.6

 

22.9+

10.9+

6.5+

 

22.86

11.45

6.35

米国

26.0

12.0

6.5

 

24.1

11.75

6.65

 

22.8

11.4

5.7

 

22.5

11.4

6.65

 

21.9

10.5

6.63

 

20.5+

10.0+

6.0+

仏国

23.0+

11.0+

7.0+

 

22.0

10.7

9.5

 

22.0

10.7

5.0

 

22.0

10.7

4.5

 

22.0+

10.5+

2.0

 

21.0

9.5

5.0

墺国

30.0

15.0

6.0

 

29.0+

14.0

6.5+

プロイセン

25.0+

12.0*

6.5+

 

23.0

11.0

6.5
5.2
5.0

 

23.0

11.5
12.0

4.9
5.5

 

23.0
25.0

11.5
12.0

5.0
5.4

伊国

30.0

15.0

5.0

 

22.0
23.0

11.0
11.0

5.0
7.0

西班牙

28.0

14.0

5.0

 

25.0

12.0

6.5

瑞典

25.0

12.0

6.5

 

25.0+

12.0+

6.0+

西瑞

25.0

12.0

6.0

露国

29.0

14.0

8.0

 

25.0

12.0

6.0

白耳義

24.0

12.0

6.0
6.5

 

22.0

10.5

5.0

 

22.0

11.0

6.0

 

15.0

7.3

3.8

バーデン

27.0

13.5

6.0

 

27.0

9.0

9.0

 

27.0

9.0

9.0

ハンブルグ

22.0
10.5

5.6

 

21.5

9.5

5.3

 

20.0

20.0

5.0

ポーランド

26.0

12.0

5.4

 

17.0

8.0

4.0

 

16.0

7.5

4.0

*n注:表中数字はすべて英数字に改めた。原文文字極小のため読み間違いがあるかも知れない。諸外国の煉瓦サイズについてはT11『窯業便覧』のデータのほうが参考になるかも知れない。

http://bdb.kyudou.org/?p=8967

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