”菱S”刻印

大阪府下、奈良県下で時おり見られる刻印。福岡県の高橋煉瓦が同型の刻印を使用していたというが(水野信太郎氏『日本煉瓦史』『国内煉瓦刻印集成』)、関西地方で見られる”菱S”刻印は九州地方のものより二回りほども小さい。この差異は大阪歴史博物館2006年特別展『煉瓦のまち タイルのまち~近代建築と都市の風景~』図録にある記述がわかりやすい。

奈良県河井町大輪田では”菱S”刻印煉瓦が優勢的に検出され、また天理市でもいくつかの検出例がある。府下で見られるものは単体転石であることが多い。そのような分布状況は奈良県下の工場の製品であることを示しているように思われ、実際奈良市東九条には斎藤煉瓦という工場が存在した(『工場通覧』初出は昭和15年版だが大正9年3月創業とあり、製造品目は耐火煉瓦となっている。昭和21年以降の資料では赤煉瓦製造)。ただし斉藤煉瓦の所在した奈良市字東九条やその周辺地域では”菱S”刻印は検出されていない。

(奈良県下の市街地の踏査は断片的局所的にしか行なえていないので、今後の進展次第で大きく変わる可能性は高い)

検出された”菱S”刻印煉瓦はその多くがJIS規格類似のサイズであった。分布の広さと検出例の多さは戦後作であることと大きく関係しているように思われる。

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