亀甲＋カナ、漢数字

関西圏での検出事例は非常に稀だが、大阪鉄道が建設した第一井路開渠（王寺町カルケット）や王寺町旧市街地で見つかっている。呉レンガ建造物研究会編『街のいろはレンガ色』p.124には呉鎮守府庁舎の解体でも類似の印が検出されているという。出胎した建物ははっきりしないものの開庁時の建物はすべてM22.3.までに竣工しているので大阪鉄道の建設時期と一致するのは間違いない。（香川県丸亀市の丸亀煉瓦が亀甲に「煉瓦」の文字を社章としており〔『窯業銘鑑大正13年版』〕、同社の使用印かとも考えていたが、その線はないようである）

初代呉鎮守府の建設には大阪堺から煉瓦が供給された節がある。例えばM19.創業の宮崎商会は宮崎商会時代から海軍省と取引があり（朝日新聞 M19.10.3）、実際に呉鎮守府への納入もあった（大阪日報 M20.9.13）。その宮崎商会がM20.9.に堺煉化石会社と改名しM22頃まで操業を続けている。また原口工場の原口仲太郎もM20頃に海軍省と取引があった形跡がある。該刻印煉瓦もそうした堺の工場の製品であった可能性があり、王寺町での検出はそれを支持するものとなりそうである。

堺煉化石は三本線を組み合わせた社章を採用していたが、この刻印の煉瓦は現時点では見つかっていない。おそらく直営工場を持たず、堺各地の個人工場を分工場とし、それが製造した製品の販売窓口として機能していたものとみられる（刻印もそうした工場のものが流通したか）。後の丹治煉瓦や青山工場などが堺煉化石会社の分工場であった。なお堺煉化の社長は鉄道頭・井上勝の叔父で土木請負業をしていた井上勝彦。M22.2.には原口工場ほか堺煉化石製造業組合の面々とともに堺煉化石同盟販売所を立ち上げている。ただしこの組合に加盟していた工場は長続きしなかったものが多く（恐らくM22会計法により官公庁の物品購買が基本的に入札制となったことと関係がある）、非加入の若井煉瓦・旭商社のほうが後年まで存続している。

余談だが青山工場は大阪鉄道との関係が深く、例えば青山工場の社章印が奈良駅転車台遺構から検出されているほか、M22.3.に河合町大字大輪田に分工場を建設するため職工を募集する広告を出しており（恐らく亀の瀬トンネル建設に乗じた措置）、事実大輪田では亀の瀬・芝山トンネルで検出されているのと同じアルファベット刻印煉瓦や若井煉瓦刻印煉瓦が見つかっている。