
アルファベット刻印
1cm角のアルファベットの刻印。関西地方ではアルファベットを識別符丁として採用した例は少なく、初代亀の瀬トンネル、旧芝山トンネル、奈良駅転車台など大阪鉄道に関連する構造物で集中的に類似刻印が見つかっている。桜ノ宮毛馬公園干潟で採取された「R」も大阪鉄道の梅田乗り入れの際に建設された淀川橋梁(明治28竣工)に由来するものと想像される。唯一大阪鉄道と関連が薄いものとして大阪城天守閣付近で検出された「M」「H」があるが、この場所には明治28年に大手前配水池が築かれており、その貯水槽に煉瓦が使用されているらしいことは周囲の転石からもわかる(堺煉化のカナ入り刻印煉瓦が多い)。
分布地域が大阪鉄道奈良側に偏っていることから、奈良市三条町の鹿峰社(明治21.6.~25頃)の供給を想像してもよいかも知れない。ただし青山商会が大阪鉄道から煉瓦を受注し分工場を建設した?奈良県河合町大輪田の街中でも同形アルファベット刻印が見つかっており、同分工場の刻印である可能性も高い。とはいえ青山商会はM23以降資料から姿を消しており芝山トンネル・亀の瀬トンネルの完成時期とは少し合わない。また大阪鉄道が大阪駅乗り入れの際に建設した淀川橋梁の近傍でもアルファベット刻印「R」が見つかっており、同橋梁に由来するものとすればM28頃まで存続していた工場の刻印ということになる(大阪城阯配水池もM28竣工)。若井煉瓦は芝山トンネルや大輪田でも検出されており存続期間もぎりぎりM28頃までかかるため、同社の後期の使用印と考えられなくもない(初期に英字刻印を用いていたことを念頭に)。