”□+漢字”刻印

漢字一文字を識別用に用いた刻印(漢字一文字を四角で囲む)は関西周辺で数系統見つかっている。最も多いグループは姫路駅旧転車台や山陽鉄道建設線の構造物で確認されている刻印で、径1.5cmほど、「製」「吉」「末」「廣」「煉」「化」「造」「賣」「部」の9種類が確認されている(兵庫県文化財調査報告第403号『豆腐町遺跡II』)。この他西宮市西宮戎神社東方の道路改修に際して「賣」刻印の煉瓦が(単体遊離で)出土(『西宮神社社頭遺跡発掘調査報告書』)。使用社についての確定的な情報はないが、豆腐町遺跡出土の刻印の漢字、および戎神社社頭で出土していることから、西宮市に操業していた勝部煉瓦製造所の使用印ではないかと想像される。同社は第3回内国勧業博覧会に山陽型煉瓦の出品実績がある。この他西宮では山陽鉄道建設期に辰馬組の煉瓦製造部も創業しており使用者の候補にあげられる。なお市川橋梁では”□+漢字”の他にも旭商社の漢数字刻印、使用者不明の”乙”刻印も検出されている。いずれも山陽鉄道特有の山陽型煉瓦に押されたものである。

次に著名なのは福井県旧敦賀港駅のランプ小屋にみられるもので、径6~7mmの小ぶりの印である。詳しくは敦賀港駅ランプ小屋刻印のカテゴリーを参照されたい。中京地域の初代東海道線の構造物に見られるグループも敦賀港駅ランプ小屋刻印と同じ大きさで、ランプ小屋で採取した刻印と全く同じ判で押されたとみられる印もあり、両者の間には何らかの関係があったようである。構造物の竣工時期や煉瓦の納入時期などからは碧海郡の西尾士族生産所の製品ではないかと推測される。(→西尾士族工場 〝□+漢字〟識別印

もう一つピンポイントに存在するのが兵庫県兵庫区の川崎重工業兵庫工場前にある〝レンガのあゆみ〟碑に見られる印。”斗”字を四角で囲ったもので、同じ字が敦賀港駅ランプ小屋にも見られるものの、その大きさや書体には明確な違いがある。該煉瓦碑は昭和53年に取り壊された労働組合事務所の瓦礫を使って作られたとあり、その建物の由来が知りたいところだが、航空写真などで検証する限り大正7年に併設された飛行機工場に由来するものとみられ、ランプ小屋や木曽三川の橋梁とは建設時期が合わない。


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