大正4年 煉瓦減産契約・輸出奨励規程(『工業評論』第1巻第3号)

■煉瓦製造業者の活躍 我邦の煉瓦界は。従来商況甚だ振わずして、頗る沈滞の状況にありしが、当業者は、之が救済策として、生産額約五割減の、所謂操短実行中なりし処、近時、稍商況恢復の兆を呈して、将来に頗る望を嘱せるものありしが、当業者は、尚自重の態度を執り、頃者、二箇の方策を決定して、一層商況恢復助長に務むることとせり。即ち、消極策として、本年七月十五日より大正五年一月十四日迄満六ケ月間尚生産額三割三歩減を続行すると共に、積極策として、輸出奨励規程なるものを設け、所定の奨励金を交付することとし、既に実行中なるは、新業の発達上意を強うするに足るものというべし。今、左に其規約の全文を掲げて、参照に供せん。因に、品川煉瓦会社は、別案を以て、本規約に加入せりと。

 契約証書

我等煉瓦製造業者は商況の消沈に伴い需給の調節を保つ為め、現下製造能力約五割の減額を実行しつつあり然るに近時商況稍恢復の曙光を認むるに至りしも未だ決して前途の楽観を許さず依て来る七月十五日より大正五年一月十四日迄満六ケ年間を一期とし従来の契約に準拠し左記事項を契約す

第一条 各当事者は各自製造能力の約三割三歩を減額為すものとす其方法左の如し
 大阪窯業株式会社は現在の普通輪環窯四基及二ケ所焚装置輪環窯五基に対し前者の内一基を全期間休止し後者は五基乃ち十口の内三口を全期間休止し一口を七月十五日より十一月十四日迄四ケ月間休止為すこと
 岸和田煉瓦株式会社は現在輪環窯五基の内一基を全期間休止し一基は七月十五日より十一月十四日迄四ケ月休止為すこと
 堺煉瓦株式会社は現在輪環窯四基の内一基を全期間休止し一基を七月十五日より九月十四日迄二ケ月間休止為すこと
 日本煉瓦株式会社及丹治煉瓦合名会社は現在各輪環窯三基の内一基を全期間休止為すこと
 津守煉瓦製造所は現在輪環窯二基の内一基を七月十五日より十一月十四日迄四ケ月間休止為すこと

 第二条 各当事者の休止為す窯は本年七月十日迄に書面を以て其申出を為すものとす

 第三条 各当事者が第一条及第二条の契約事項を実行するや否やを調査為すため当番幹事二名を設くる事とす
当番幹事は組合の当番幹事を以て之に当つ
当番幹事は自己の休止状態を検査為すの権能を有せざるに付他の幹事に調査を受くることとす
幹事は責務上他の当事者の本契約に対し不履行を認めたる時は各当事者に通知為すことを怠るべからず

 第四条 本契約に違背したる者は罰欵として左の金額を他の当事者に賠償すべきものとす
規程休止期間内に休止実行為さざるものは一ケ所焚輪環窯一基二ケ所焚輪環窯の内一ケ所以上二口各一日毎に金三十円支出二ケ所焚輪環窯は一日毎に金六十円支出すべきものとす

 第五条 契約不履行者より徴収したる罰金は他の当事育に於て左記の割合に依り分配為し不履行者は分配を享くるの権利を有せず
 大阪窯業株式会社    分配割合 四
 岸和田煉瓦株式会社   同    二
 堺煉瓦株式会社     同    一
 日本煉瓦株式会社 同    一
 丹治煉瓦合名会社 同    一
 津守煉瓦製造所     同    一

 備考 右金率の内より違約者の率を除きたる率を以て他の当事者に割付くるものとす

本契約は各当事者に於て之を承認し各自左に署名捺印したるものを六通作成し各自其一通を保存するもの也
 大正四年七月三日
  日本煉瓦株式会社
   取締役社長 宮崎弥三郎 印
  大阪窯業株式会社
   取締役社長 磯野良吉 印
  丹治煉瓦株式会社
   代表社員 丹治良一 印
  津守煉瓦製造所
   林尚五郎 印
  堺煉瓦株式会社
   取締役社長 太田貞雄 印
  岸和田煉瓦株式会社
   専務取締役 山岡邦三郎 印

 輸出奨励規程案

 目下組合内に停滞せる製品を可成速に売盡さんとする目的を以て左の奨励規程を設く

 第一条 組合内の製造所にして左の地方に煉瓦を輸出したるものには本規定の定むる所に依り奨励金を交付す
 備前以西の中国筋及四国の内讃岐、伊予の二国
 九州一円、山陰地方、北陸地方及北海道

 第二条 奨励金の最高限度は一千個に付金五十銭とし交付すべき事項ある毎に組合会に於て其金額を決定す

 第三条 奨励金を交付するには帆船々側渡売価一千個に付上等七円八十銭以下に取引したるものに限る
 他品の売価は上等に準ず

 第四条 輸出するものの供給方法を左の如く定む
 一、二十万個以上の供給は組合定率に依り員数分担とす
 二、二十万個未満の供給は奨励金の限度以内に於て被指名者の競争入札に付し最少額の入札したるものを以て供給者と定む同額のもの二名以上あるときは抽籤に依り之を決す
 三、二十万個以上の供給と雖も員数分担すること能わざる事情あるものは前項の例に依る

 第五条 奨励金を受けんとするものは前以て組合に申告し其商人を受くべし又輸出員数に対しては正確なる証拠書類を提出し立証すべし此手続を為さざるものには奨励金を交付せず

 第六条 奨励金に充当する為め組合員は毎月其焼成数に対し一千個に付金五銭を組合に出金すべし但五銭の内金一銭は毎月之を徴収し残額は必要に際し金額を定め随時之を徴収す

 第七条 組合員は毎月の焼成数を翌月五日迄に組合に届出づべし其届高の正否は理事に於て調査すべし

 第八条 本規程は本年七月廿日より大正五年一月十四日迄を一期として実施す但し期間満了の時に於て之を継続することを得

 第九条 前条期限に於ける徴収金の剰余は組合の積立金とす

『工業評論』第1巻第3号(大正4年8月5日)

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