プレス成形

型枠に入れた粘土を機械力で押し固めて成形した煉瓦。関西地方では関西煉瓦が明治21年9月にイギリスから機械を輸入して製造を始めたのが嚆矢とみられる。最盛期には日に3万個の製造能力があり、その機械の動作する様は一見の価値ありと滝大吉『建築学講義録』にも書かれている。

関西煉瓦の採用したプレス成形機械は諸外国で普通に用いられていたものとみられ、所謂 “frog”(モルタルの膠着力を増すために平面を凹ませたもの)のある煉瓦が作られている。函型の器に充填した粘土に函にぴったり一致する蓋をプレスして圧縮し、その蓋の部分に径2cmほどの孔が開いており、これが一種のライナーとなって余剰煉瓦はそこから溢れ出る形式になっていたらしい。ライナー痕を横断する形で裁断すると孔周辺の粘土の流動を確認することができる。また煉瓦の各面は型に接するため平滑に仕上がることになる。押し出し式の機械成形では長手小口が平滑になるのみである。

関西地方ではこの他にも大阪の樽井煉瓦がプレス成形を大々的に採用している。その型を流用して作ったとみられる増田煉瓦のような例もある。この2者には関西煉瓦製品のようなライナー痕は見られないので、異なる仕組みの製造機械であったのだろう。大阪窯業も半乾式のプレス成形機械を保有していた記録があり、それで作られたとみられる角丸の異形煉瓦がある(断面写真。アール部分が非常に正確に作られていて胎土も均質。樽井煉瓦にもプレス成形とみられる角丸煉瓦がある)。

なお明治21年2月に堺煉化石会社が煉瓦製造機械を発注し煉瓦製造を本格化するという新聞記事があり、これが関西における機械採用の最初の試みとみられるが、ちょうどこの記事が書かれた頃を境にして堺煉化石会社の動向を窺えなくなるため、実際に導入できたのかどうかは不明である。この記事では高田商会の手を経てドイツに発注したとあり、後に大阪窯業が採用する押出式のものが想像される。

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